私は中国企業で働いていますが、中国語はまったくできません。そのため、私には担当の通訳がいます。
彼女は大学院で日本語通訳の修士課程を卒業した後、新人として私の元に配属されました。それから約3年半にわたり、仕事においては常に私と行動を共にして、今では通訳という役目を越えて、誰もが認める私の右腕です。
他に日本人がいない環境なので、良き相談相手にもなってくれて、今日まで私が仕事を続けられたのは彼女のおかげです。大いに感謝しており、感謝しきれるものでもありません。
そんな彼女が、この度結婚することになり、嬉しいことに結婚式に招待してくれたので出席してきました。
中国の結婚式は、もちろん初めてです。場所は新郎の実家のある四川省の地方都市です。私がこれまでに訪れたことがあるのは、四大都市(北京、上海、広東、深セン)だけなので、地方都市というのも初めての経験でした。
日本の航空会社の直行便はなく、Air China(中国国際航空)を使います。Air Chinaなのに航空会社のコードはCA。そして、台湾にChina Airline(中華航空)というのがあって、大変紛らわしいです。
結婚式はその国や地方の文化を色濃く反映する行事です。日本国内でも、場所によってずいぶん違いがあるように、中国も当然場所による違いはあります。国土が広大で歴史が古い分、日本よりも違いは大きいかもしれません。だから、これはあくまでも、「私が出席した結婚式では」ということで理解してください。ただ、何人かの中国人に聞いたところ、現在の都会人の結婚式としては、だいたい標準的なところだそうです。
特に大きな日本との違いとして感じたのは、
規模が大きい。
招待客は200人以上。新郎の実家は特に地元の名士というわけてせもなく、これは標準的な人数だそうです。
結婚式と披露宴が分かれていません。そして、結婚式に宗教色はまったくありません。
披露宴会場で結婚式が行われます。結婚式の進行と内容はキリスト教式を模していますが、「神」という言葉は一切出てきません。そして、式を司るのは司会者であり、宗教家ではありません。中国の都会においては大半の人が無宗教です。
ちなみに、共産党員になるには無宗教が条件の一つだそうです。
新郎新婦の座るひな壇がありません。
結婚式を披露宴会場で行うので、会場の奥は舞台になっていて、ひな壇はありません。そのため、新郎新婦は結婚式~披露宴に至るまで、立ちっぱなしです。
中央にファッションショーで見られるようなランウェイがあります。新郎新婦はここを通って、会場前方の舞台に進み、そこで式が進行します。
ドレスコードがまったくありません。
Tシャツに短パンの人もいれば、3ピースのダブルのスーツの人もいます。花嫁の両親は、近所のスーパーに買い物に行くような服装で、壇上で挨拶していました。
事前に服装は何でもOKと聞かされていましたが、一応私は、いわゆるジャケパンにリポンネクタイというスタイルにしました。
ドレスコードがないと言っても、日本でフォーマルとして着る黒のスーツは葬式の色なので失礼になるそうです。もし、中国の結婚式に行く機会があったら、それだけは避けましょう。
女性は、全身赤いドレスが不可だそうです。赤は花嫁さんの色だからです。今回も、結婚式はウエディングドレスで行われましたが、お色直しでは赤に金糸の刺繍が入った「秀しゅ服」というチャイナドレスの結婚衣装を着ていました。
食事が山のように出て、大量に残します。
中国式の円卓にターンテーブルが付いている形式ですが、ここに次から次へと料理が載せられます。皿が乗り切らなくなると、2段、3段と皿が積み重ねられていきます。当然食べきれるものではなく、大量に残ります。中国では食べきれないほどの量を出すのが良しとされていて、多ければ多いほど良いそうです。
終わりの締めがなく、適当に帰る。
文字通り山のように積まれた料理の皿を適当に食べて満足したら、そのまま帰ります。いわゆる流れ解散というやつですね。日本人としては、いつ席を立って良いのかわからず、戸惑います。
食事開始の合図となる乾杯の音頭というのもありません。席についたときから勝手に食事をはじめて、結婚式をやっている最中も、食べています。
そういえばケーキカットもありませんでした。もともとデザート文化に乏しい中国ですから、お祝い事にケーキを食べる習慣もないのだと思います。
席は決まっていない。
ただし、テーブルは決まっています。したがって、欠席者や急に出席した人がいても、対応可能です。実際、出席の返事をしたのに当日に来ない人や、呼んでもいないのに来る人などもいるそうです。
そして、とにかく騒がしい。
これが根本的な違いだと思います。日本の結婚式のように厳かな雰囲気はありません。壇上で式をやっていようが、新郎新婦がスピーチしていようが、お構いなしにワイワイガヤガヤやっています。結婚式では、騒がしいほど良いとされているそうです。そのおかげで、私はあまり泣かずに済みました。
それと、日本では披露宴でスピーチや余興などが行われますが、これはありません。
今回、私を招待してくれた新婦からスピーチを頼まれていましたが、中国の結婚式でスピーチをするのは稀で、よほどの賓客だけだそうです。実際、招待客でスピーチをしたのは、新郎側も含めて私だけでした。あとは、新郎新婦本人とそのご両親だけです。
そういう立場の扱いをしてくれたことは、とても嬉しかったです。
私のスピーチは通訳付きです。最初は新婦に通訳をしてもらうという案も出ましたが、新婦の通訳の同僚でもあり、私と新婦の共通の友人でもある女性に通訳をお願いしました。下の写真で手を添えてくれています。元写真ではちゃんと写っていますが顔出し不可なのが残念。
また、結婚式の前にも、飾り付けられた部屋にいる花嫁を新郎が迎えに来るというイベントがあるのですがこれは親しい友人たちによって準備されます。花嫁を部屋から連れ出すにあたり、様々な試練が新郎に課せられ、それをクリアしなければなりません。試練と言っても、実際には簡単なゲームやクイズで楽しく過ごすものですが、おそらく、昔は花嫁を家から連れ出すにあたり本当の試練が課せられたのでしょう。もっとも中国らしいイベントでした。
歴史上、多くの接点と共通の文字を持ちながらも、まったく異なる文化を持つ中国の結婚式。一生の思い出となりました。