私のVantageの最大の特徴は、7速のマニュアル・トランスミッション(MT)を搭載していることです。これは、このVantageを購入した最大の動機でもあります。ディーラーの担当セールスによれば、VantageのMT仕様は日本では10台程度しか販売されていないそうです。しかも、2021年を最後に設定がなくなったそうで、私のは2021年モデルですから、最後のMT車ということになります。
これ以降、Aston MartinはValourのような非常に特殊な特別仕様車を除いて、MT車を販売していません。そしてValourは6速MTですし、そもそも普通の人は購入できません。
というわけで、このVantageはAston Martin最後の7速MT車なのです。
私のVantageは、MTとカーボンセラミック・プレーキのおかげで標準仕様から約100Kg近く軽くなっているそうです。また、デファレンシャルが、標準のAT車はEデフになっていて、トルクベクタリング制御が行われていますが、MT車の場合は機械式のLSDに変更されていて、これも軽量化に寄与しています。もっとも、そのためトルクベクタリング制御はなくなっています。だから交差点の左折などで、少し強めにアクセルを踏むと、内側の後輪が滑るのを感じられるので気持ち良いです。もっとも、これを気持ち良いと感じるのは、私の世代以上だけかもしれません。
走行中、ギアの唸り音が結構大きいです。速度と音の関係から、デフからの音だと思います。嫌な音ではないですし、正規ディーラーでの整備がされているので、トラブルではないと思います。私としては、レーシングカーみたいで気に入っています。もちろん、本物のレーシングカーのストレートカットのギア音はこんなものではありません。
センターコンソールは、一見するとAT車と同じように見えますが、実は結構違います。デザインはATと共有ではなくMT専用になっています。
ATではインフォテイメントの操作パッドのすぐ後ろにドリンク・ホルダーが設置してありますが、MTではコンソールボックスの後ろに移設されています。AT車と同じ位置だと、ドリンク・ホルダーに入れたボトルなどがシフト操作の邪魔になるからです。私の身長だと、このメルセデスと同じデザインのインフォテイメント操作パッドが、シフト操作のときに微妙に腕に当たるのがうっとおしいですね。もう少し着座位置を高く設定すれば良いかもしれませんが、それではスポーツカーらしいドライビング姿勢にならないです。
車幅が広いクルマの場合、シフトレバーは運転席側にオフセットされて設置されていることが多いのですが、Vantageは完全に中心にあるので、ステアリングからシフトノブが遠くて、手の移動量が大きいです。そして脇が開いてしまうのも、少し気になります。トランスミッション自体はリアに搭載されているので、シフトレバーが中央である必要はないのですが、たぶんセンターコンソールのデザイン上の都合でしょう。
そしてこれが7速のシフトパターン。1速が左手前に独立しているタイプで、海外の動画では”Dogleg Pattern”と称されていて、日本語版の取説にもそのように書かれていましたが、私としては、レーシング・パターンとかヒューランド・パターンと呼ぶ方が馴染みがあります。
レーシングカーの1速はスタートのときにしか使わないので、このように独立させていて、その昔レーシングカーのトランスミッションと言えばヒューランド製だったから、そのように呼ばれていました。
前後方向のストロークは問題ないのですが、横方向のストロークは各ゲート間が狭くて間違いやすい。
ニュートラルのバネの中立は4速-5速のところにあります。2速-3速の位置から、1速の位置へは、一段強いバネが入っていて、一応、感覚でも位置がわかるようになっています。1速でスタートして、2→3→4→5とシフトアップのときは問題ないのですが、シフトダウンのときに、4→2というようなスキップシフトをすると、2速にうまく入れられないことがあります。行き過ぎて1速のところまで持って行って、そこから上に上げようとしても、2速に入らないというミスをやらかします。4→3→2と順番にシフトダウンするときは間違えませんが、それだと忙しすぎるのです。
まだ、操作に慣れていなくて、時々混乱することもあります。取り扱い説明書にも、「パターンに慣れるまでは慎重に運転しろ」と注意書きがあります。
MTなので、当然3ペダルです。
クラッチは特に重くは感じませんが、私はもともとコルベットなど400馬力オーバーのMT車に乗り慣れているからかもしれません。国産車のスポーツカーから比べたら重いかも。クラッチ操作は特別難しいということはありません。クラッチミートも分かりやすい。今のところ、一度もエンストしていません。
クラッチの左側が少し狭くて、普通のスニーカーだと左足を置くときに、カーペットを擦ってしまいます。細身のドライビング・シューズなら大丈夫。
ブレーキはスポーツカーらしくストロークが短くて剛性感の高い、私好みのタッチです。LCのブレーキは効きは良かったのですがストロークが深くて興覚めでした。普通のクルマから乗り換える場合、その方が違和感がないからだと思いますが、乗りやすさを重視した結果、乗用車的な操作感になっていたのは残念な点でした。
ただし、Vantageの場合ブレーキのストロークが短いので、アクセルペダルとの高さが合わず、ヒール&トゥがやりにくいです。また、比較的軽い踏力でブレーキが効くので、アクセルを煽るときにブレーキが強めにかかってしまってギクシャクします。まあ、こういうのは慣れなので、そのうちスムーズにできるようになると思いますが。このような慣れる過程はAT車では味わえないMT車の楽しみですね。
実は、自動回転合わせのモードをONにしておけば、ヒール&トゥをする必要はないのですが、なんというかMT車を乗り継いできたプライドとか、回転合わせこそがMT車の楽しみだ、みたいな気持ちがあって、ONにしたいと思いません。試しにONにしてみたらウルトラスムーズなギアチェンジになりましたが、これはデート用モードとして使うのみですね。
あと、私は坂道発進も苦にしたことはないのですが、自動ヒルストップも付いていて、坂道発進が苦手な人にも問題なく運転できます。今時のMTは初心者に優しいです。
Vantageにはエンジンのモードが3種類あるのですが、それぞれのモードでエンジンのレスポンスが結構変わるので、ギアチェンジのときのアクセル操作もそれに合わせて変えなければなりません。これはAT車では対応する必要のないことで、MTならではだと思います。特にトラックモードではエンジンレスポンスがとても速いので、低速で走っているときのギアチェンジには気を使います。
以上、今時のスポーツカーはAT車ばかりになってしまった世の中において、わざわざMT車に乗るときの苦労や楽しみを得るためにこのVantageを買いました。
今後、排ガス規制や燃費規制、あるいは走行性能向上などのため、ますますMT車は減っていくでしょう。大排気量・高出力車のMTを運転できるのは、今が最後だと思います。