水温のこと

これは私のコルベットの計器板の一部。左下にあるのが水温計です。アメリカは華氏表示を使うので、こういう数値になっています。 日本仕様を含む輸出仕様は、これがちゃんと摂氏表示になっています。

ところで、水温計にこのように数値が書き込まれているクルマは珍しいです。ほとんどのクルマはLとHという表示だけで、 実際に水温が何度になっているのかわかりません。実はそういうクルマの水温計は、実際の水温に従って表示しているのではないのです。

エンジンの水温というのは、実際にはかなり上下します。走行中は下がっているし、渋滞になれば上がります。 これをそのまま水温計に反映させると、ドライバーが不安になるということで、正常な範囲内の水温であれば、 常に中央よりちょっと低い位置を示すように工夫がしてあるのです。だから、ほとんどのクルマの水温計は、 暖気後はピタリと中央よりちょっと低い位置を指したまま動きません。それともう一つ、数値を書き込んでいないのは、 正常な状態でも水温が100℃を超えていることがあって、それもまたドライバーを不安にさせてしまうからです。
こうした理由で、普通のクルマはドライバーに実際の水温を隠しています。

ところがコルベットは、水温をきちんとドライバーに知らせます。色々なシチュエーションで、 水温がかなり上下していることがわかります。GMは、コルベットに乗るくらいの人は、その辺の事をきちんと理解している、 という判断のもとに、水温計のダマシをしていないのだと思いますが。

しかし、残念ながら、コルベットに乗って水温計を見て不安を訴えるドライバーはかなり多いです。ドライバーだけでなく、 何か勘違いして、ローテンプ・サーモなどを普通の人に薦めているレベルの低いショップも存在しています。

水温はどんなクルマでも、かなり上下しています。コルベットは、冷却系の設計が優れていて、 普通のクルマより水温の上下が少ないくらいです。それから、水は100℃で沸騰しますが、それは水の場合であって、 冷却水は100℃では沸騰しません。コルベットの純正指定となっているDEXCOOLという冷却水の1気圧下での沸点は129℃です。 しかもコルベットの冷却系は大気圧の2倍の圧力で加圧されているので、さらに沸点は高いのです。100℃を超えていても全然問題ありません。 安心してください。
ちなみに、C5コルベットのECM(Engine Control Module)は、124℃で警告を出すようになっています。 ですから警告が出た時点では、まだ大丈夫です。警告が出たからと言って、即オーバーヒートするわけではありません。しかし、 警告が出た場合は、エンジン回転を落として走行するなどの対策は講じなければなりません。

だいたい今時のクルマは、排ガス対策のために、通常時で水温が95~110℃くらいの間にあるように設計されています。 昔のクルマならいざ知らず、C4以降のコルベットでは、通常使用でオーバーヒートはしません。もしオーバーヒートする兆候がある場合、 何かが壊れていると考えるべきです。ですから、水温対策としてローテンプ・サーモを入れるのは間違っています。壊れている何かを突きとめて、 それを修理するのが本筋です。
ローテンプ・サーモスタットは、圧縮比を変えたり、スーパーチャージャーやターボチャージャーなどの補機を追加することによって、 出力が大幅に上がったエンジンに使うもので、ノーマルのエンジンには使う必要はありません。