セスナ


日本では、なかなか乗る機会のない小型飛行機だが、アメリカではポピュラーで飛行機の免許を持っている人は珍しくない。大抵の町には小型機の飛行場があるので、趣味はもちろんのこと、実用的な乗り物としても利用されている。免許を取得するには、それなりの教習を受ける必要があるが、日本で自動車学校に通うのと似たような感覚だとのこと。もっとも、アメリカでは自動車の免許を取得するのに、学校に通う必要はないので(自動車の運転の仕方は、親が教えるらしい。)、アメリカでの乗り物の免許としては、難しい部類に入るだろう。
そんな背景のもと、私が仕事をしている会社にも飛行機の免許を持っている人が何人かいて、乗せてもらう機会も多く、事あるごとに「飛行機の免許を取ったら?」と言われる。



これが、今回乗る飛行機。いわゆるセスナである。小型機の総称として「セスナ」と呼ばれることが多いが、「セスナ」は元々は小型機の製造メーカーの名前。あまりにもポピュラーなので、商標が一般名となってしまったものの一つだ。 これは正真正銘のセスナで、4人乗り。キャピンに与圧はない。
この機体はレンタルなのだが、実は意外にレンタル料は安く、1時間で大体$60前後。この料金にはガソリン代も含まれている。しかも、料金はエンジンの回っている時間に対してのみチャージされるので、たとえば、どこかの飛行場まで飛んで、そこからレンタカーで移動。バーベキューをして帰ってくる。などという事をしても、飛行機のレンタル料のチャージは往復の飛行時間に対してのみである。日本で想像するほど贅沢なものではないことがわかるだろう。
もちろん、飛行機の価格も日本人が想像しているほど高くはなく、二人乗りの小型機であれば中古で$20,000程度から買えるという。レクサスを一台買うよりも安いのだ。もっとも、レンタル料金がこのように格安なので、通勤に利用するとか(実際にいるらしい)でなければ、レンタルした方が得だろう。
マガジンスタンドに行けば、飛行機の中古売買誌がどこにでもあるし、新聞の個人売買欄にも飛行機のコーナーがあるくらいポピュラーだ。ちょっと見たところでは、パーソナルジェットなども売買されていて、価格は$500,000くらいから。確かに高いには違いないが、ランボルギーニが2台買える金額を出せば、パーソナルジェットが買えるわけだ。この程度の金額なら、おもちゃを買う金額として払える金持ちは、この辺にはたくさんいる。




タキシング中に隣に並んだ複葉機。こういうのは、もちろん個人所有の飛行機。僕らが乗っているセスナと比べたら、エンジンパワーもありそうだし、機動性も相当高いだろう。クルマに例えれば、セスナがカローラだとすれば、あれはスーパー7といったところか。どうせ飛行機の免許を取るなら、ああいう機体が欲しいものだ。




離陸中に飛行場を眺める。この写真に写っているのは、ほんの一部。日本にある全部の小型機の数を合わせても、この飛行場にある小型機の数に及ばないという。



San Jose国際空港上空。大型旅客機が何機か見える。さすがに国際空港の滑走路は大きい。




我が家上空。このように、自分の家を空から眺めるというのも、小型機ならでは。改めて、我が家の周囲に自然が豊富なことを実感できる。
上の方に見える湖はクリスタル・スプリングスという名前で、この付近一帯の水源となっている。ロスアンゼルスなどと違い、この湖のおかげで夏でも水不足になることはない。その名の通り、非常にきれいな湖であるが、重要な水源なので付近一帯は立ち入り禁止となっている。もちろん、ボートを浮かべたり釣りをしたりすることもできない。
クリスタルスプリングスのすぐ下を横に走っているのがフリーウェイ280号線。我が家が利用するメインのハイウェイであり、サンフランシスコやサンノゼに行くことができる。混むことはなく、景色もきれいなフリーウェイだ。




サンフランシスコのダウンタウン。さすがにここでは、緑色がほとんどない。サンフランシスコは、観光地としても有名であるが、クルマは走りにくいし止めにくい、ホームレスは見かけるし、街もそれほど綺麗でなく、私はあまり好きではない。ここには多くの人が住んでいるが、僕は住まいがサンフランシスコじゃなくて良かったと、上空から見てつくづく思った。




ゴールデンゲートブリッジ。ナショナル・ランドマークとしてテロの標的の一つではないかと懸念されるだけのことはある、綺麗な橋だ。例のテロ事件の後、この橋の警備は大幅に強化されている。
ちょうど、ゴールデンゲートブリッジの下を大型船舶が航行中。ここはよく霧が出るところだけど、多くの大型船舶が行き来するところでもあり、よく事故が起きないものだと思う。




サンフランシスコ国際空港のターミナル。
このような超巨大空港にも、セスナ機で着陸することは可能。ただし、サンフランシスコ国際空港の場合には、使用料を$60前後取られるらしい。これは、混んでいるから小さな飛行機には降りて欲しくない、という事で抑止力とするためのものだそうだ。確かに、300人乗っているジャンボジェット機も二人乗りの小型機でも滑走路を占有する時間はほとんど同じわけで、いつも上空で着陸の順番待ちをしているジャンボジェット機がいるような空港では迷惑な話である。
それでも、話のタネに一度は降りてみたいと思ってしまう。ジャンボジェット機用の巨大滑走路の端っこに、チョコンと降りてくるセスナ機。面白いんじゃないかな。




左側が機長席で、右側が副操縦士席。もちろん、僕は右側だ。上空に上がると僕が操縦することも多い。免許を持っている人が乗っていれば、誰が操縦していてもいいらしい。一つには、僕に操縦させて飛行機に興味を持たせ、免許を取得させようという目論見があるわけだが、それ以外にも理由がある。それは、操縦士は位置の確認、管制とのやりとり、無線周波数の切り替えなど、いろいろと忙しいのだ。もちろん、操縦しながら、これら全てを一人でこなせるように訓練して免許を取ったわけだが、二人で分担していれば楽をできるし、それだけ安全だ。
実を言うと、すでに飛んでいる飛行機の操縦は簡単である。この手の飛行機はエンジンさえ回っていれば落ちることはない。操縦桿から手を離せば、大体まっすぐ水平に飛んでいく。あとは、無線の指示にしたがって高度と方位を修正するだけだ。
もちろん、練習としてスピンリカバリーなどもやるそうだが、そういう事態でない限り、操縦はクルマよりも簡単だろう。それよりも難しいのは、自分の位置を確認したり、管制とのやりとりなどのコミュニケーション。一人で操縦するとなると、かなり面倒で忙しいだろう。この辺は、空が非常に混んでいるので、ゆっくり景色を眺めながら、なんていうのは一人の時は難しそうだ。




着陸。
この時ばかりは、ジャンボジェット機と違い、さすがに多少の緊張感を伴う。




日本に住んでいたら、まず乗る機会のないセスナ機だが、このようにアメリカではごく普通の交通手段であり、趣味となっている。基本の免許をとるには、大体$4,000くらいかかるそうだ。
新聞の不動産売買欄を眺めていると、時々「プライベート滑走路付き」という物件に出会うことがある。田舎の方に住んで、買い物や通勤などは自宅滑走路からこのようなセスナ機で町まで飛んで、そこからクルマで移動するというわけだ。安い機体で$20,000だし、不動産の方は田舎なのでこの辺よりも安いし、このような「自家用飛行機通勤&自家用飛行機でお買い物」といった生活が、僕のようなサラリーマンでも夢物語ではなく、現実の選択肢として、目の前にあるわけだ。
さて、自分は飛行機の免許を取るかどうか? 幸いにしてアメリカでは裸眼視力は問われないらしい。子供のころは、ジェットファイターのパイロットになりたかったのだが、視力が悪くその道は早くにして閉ざされてしまった。今でもジェットファイターは好きだし、ゲームでパイロット気分を楽しんだりしている。で、実際に飛行機を操縦してみると、実は意外に退屈なものだった。冒頭に写真を載せた複葉機。ああいうのが所有できれば、飛行機の免許を取って楽しんでもいいと思うのだが。実用一点張りのセスナ機では、ハイウェイをクルマで走っているより退屈。それに加えて、管制とのやりとりだの無線周波数の切り替えだの、といった本来の操縦とは違う部分で忙しい。そういうった事を知ってしまうと、なんとなく魅力が薄いと感じているのも事実だ。もちろん、アメリカに永住することができれば、間違いなく飛行機の免許を取って、複葉機を手に入れられるようにがんばったと思うが、今の段階ではいつかは日本に帰らなくてはならず、日本に帰ってしまうと、飛行機の趣味というのは一般的な収入のサラリーマンでは無理なわけで。
とはいえ、ごくまれに見かけるWW2時代のファイターが2機、3機といった編隊を組んで飛んでいくのをみかけると、とても楽しそうでうらやましい。さて、どうするかな。